2016年05月13日

ご主人が正義の味方だったら、奥様は・・・・

'16年5月13日(金)
[会社] ブログ村キーワード

結婚して3年が過ぎた頃
だった。
その日も、1歳になる娘と
一緒に、穏やかで子煩悩な
夫が会社から戻るのを
待っていた。

ところが、いくら待っても
夫が帰ってこない。
普段なら「遅くなる」
という連絡があるのに
それもなく、
夜中に酔っぱらって
暴れて帰ってきた夫が
いた。
初めてのことだった。
「会社辞めてきたぞ。
 文句あるか」

と怒鳴りながら眠って
しまった。
翌朝、起きてこない夫を
起こしにいくと、
「辞めたから
 もう行かなくていい、
 眠らせてくれ」と
布団をかぶった。

本当に辞めたのだった。
私は夫を責める気には
なれなかった。
今まで嫌なことや辛い
ことがあっても、
私たちのために我慢して
くれていたのだと思うと、
何も言えなかった。

夫が元のようになれるまで、
私がこの家を
支えていこうと決めた。
そんな折、
「私が勤めている
 保険会社で、
 レディさんを
 募集しているんだけど、
 働かない?
 保育所もあるし。
 家にばかりいると
 老けちゃうよ」

と、学生時代の友人が
たまたま声をかけてくれた。
私は事情は話さず、
「ちょうど働きたいと
 思っていたの。
 家に毎日いるのも退屈
 だから、ぜひ紹介して」

こうして運よく働ける
ことになった。
主人には、少し休んで
もらいたいと思った。
彼があんな形で辞めるの
には、相当な理由が
あったに違いない、という
思いだった。

新しい生活が始まった。
朝は夫の朝食と昼食を作り、
娘の保育所の準備をして、
二人で会社の事務所に行く。
幸い娘が元気でいてくれた
ので、休まず毎日出勤する
ことができた。けれど、
営業の仕事はきつく、
気持ちが折れそうになる
ことも度々あった。

最初の3カ月間は、
契約が取れなくても給料は
もらえたが、その後は
3件の契約がノルマだった。
当時は訪問販売が中心で、
玄関には
「訪問販売お断り」という
紙が、多くの家に貼られて
いた。

そんななか、少し扉が
開いていたMさんという
お宅を覗いて
「こんにちは」と声を
かけた。
すると、優しそうな
六十代後半の女性が
「はいはい」と出て
こられた。

名刺とパンフレットを
渡して挨拶すると、
「ああそう。保険ね」と
にっこり笑った。

その後、話を切り出せずに
いると
「早く営業しないと
 だめでしょ」と
言いながら、お茶と
お菓子を出してくださった。

「あなた何か訳があって
 働き始めたのでしょう。
 ご主人が
 仕事辞めてきたとか」
「どうして
 わかるんですか」
「うちもそうだったのよ。
 うちの主人は
 正義の味方みたいな人
 でね。
 同僚や後輩のために
 自分が犠牲になって、
 守って、挙句の果てに
 リストラされてね。
 子どもは小さいし、
 もうすぐボーナス、
 というときに
 辞めてくるんだから、
 呆れてしまったことが
 あったわ」
「私、理由は聞いてないん
 ですけど、うちも突然、
 辞めてきたんです」
「そう。でも何とかなる
 ものよ。今だと笑い話に
 できるもの。
 あなたもそうなるわよ、
 きっと。大変だけど
 乗り切ってね」

心に光が差し込んだ気分
だった。母や身内に相談
できる人もおらず、
励ましてくれる人の存在が、
気持ちを明るくしてくれた。
その日は、とりあえず
保険の説明をして帰った。

毎月のノルマに関しては、
友人の紹介で2件の契約は
もらえたが、あと1件必要
だった。足を棒にして
毎日歩き回ったが、だめ
だった。

「もう限界かな、明日は
 職安に行こう」と
思いながら事務所に帰ると、
事務員の人から
メモを渡され、見ると
Mさんからだった。
“お願いごとがあるので
 来てください”と書いて
あった。

私が翌日訪ねると、
Mさんは、
「もう若くないから、
 大きな保険は要らない
 けど、適当なものに
 入りたいから探して
 くれる?
 いいタイミングで
 あなたに会えたわ」

そう言ってくれた。
ノルマが苦しくても、
いつも励ましてくれる
Mさんにはお願いが
できずにいたので、
本当にありがたかった。
「仕事とか関係なく、
 いつでも寄って。
 愚痴ぐらいだったら
 聞くわよ。
 言ったところで解決
 しないけど、
 気が晴れるものよ」

それからは実の母親の
家のように、お邪魔する
ようになった。
Mさんから人との接し方を
学び、契約も取れるように
なった。
夫もやる気を出し始め、
2年がかりで資格をとり、
新しい仕事に就いた。
気が付けば、元のような
生活に戻れていた。

あのときMさんに
出会わなければ、私たち
家族は壊れていたかも
しれない。
Mさんに励まされ、
救ってもらった。
自分には応援して
くれている人がいる、
そう思えたから頑張れた。
Mさんには
いくら感謝してもしきれ
ない。
(大阪府堺市・主婦・65歳
 松井秀美さん
 誰かの応援が生きる力に
 生きる396話
 PHPNo.817‘16/6)

posted by (雑)学者 at 00:00| 千葉 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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