まだ1歳だった
娘を連れて
ロンドンに行った
ときの経験でした。
当時の私は25歳、
たいした収入もない
フリーライター
でした。
行ってみると、
19歳の大学生のとき
以上に
驚くことばかり
でしたね。
例えば、
地下鉄の階段の上で
ベビーカーを持って
まごまごしていると、
年齢や性別に
かかわらず
いろいろな人たちが、
「May I help you?
(手を貸しま
しょうか?)」
って声をかけながら
駆け寄ってきて、
手助けして
くれるんです。
びっくりしたのが、
フリーマーケットで
娘に
3百円くらいの
安いワンピースを
買ったときです。
お金がなくて、
「こんなものしか
娘に買って
あげられない」
と思いながら、
私は
お金を払いました。
売り子は、耳や唇に
ピアスをはめて
髪をトサカのように
固めたパンク青年。
彼は
服を袋に入れると、
私にではなく、
娘にその包みを
渡したんですね。
「君のママは
こんなすてきな
ドレスを
買ってくれたんだ。
これを着れば、
君はすばらしい
レディになるよ」
って、しゃがんで
娘に話しかけ
ながら。
娘はもう大喜びで、
一つだけ
教えてあった
「Thank you」
という英語を
彼に返したんです。
娘を連れて
町を
歩いていても、
おばあちゃんたちが、
「なんてかわいいん
でしょう」
「手が冷たく
なっているから、
もう
宿に帰った
ほうがいいわよ」
と、話しかけて
くれる。
今は制度が
変わっていますが、
娘が夜中に
40度の高熱を
出したとき、
恐ろしくなった
私は、
ダイアナ皇太子妃が
お子さんを
出産した
セントメリーズ病院に
駆け込みました。
追い返されるのでは
ないかと
不安でしたけれど、
すぐに
診てくれたんです。
「いくらですか?」
と聞くと、
きょとんとした顔で
「Free(ただですよ)」
と言うんですね。
イギリスでは、
美術館や博物館
といった
公共の文化施設も、
誰に対しても
無料なんです。
移民や外国人旅行者にも
いつでも手を広げて、
お金がなくても
可能性という
枠だけは確保しますよ
という、
社会の豊かさの片鱗に
触れたような
気がしました。
(井形慶子 こころの時代
ラジオ深夜便'09/10
NHKサービスセンター)
参考
井形慶子('59/12/18-)
作家、ジャーナリスト
月刊「ミスターパートナー」
雑誌編集長、
出版社代表取締役
ザ・ナショナル・
トラストブラント顧問
海外特派員協会会員

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